1. はじめに¶
1.1. TNSとは¶
津波シミュレータ(TsuNami Simulator: TNS)は、国立研究開発法人防災科学技術研究所がパッケージ化(三好・他, 2019)した津波伝播・遡上シミュレーションを実施するためのソフトウェアです。
1.1.1. 津波初期波高の計算¶
Okada(1985)に基づく海底地殻変動による津波初期波高を計算できます。
複数の要素断層からなる断層パラメータを入力可能です。
要素断層ごとにすべり量、すべり開始時間、すべり継続時間を設定できます。
Tanioka and Satake (1996)による水平地殻変動の影響を設定できます。
Kajiura (1963)による水理フィルタを適用できます。
1.1.2. 津波伝播・遡上の計算¶
TUNAMI-N2(例えばGoto et al., 1997 : Imamura et al., 2006)をもとにした、ネスティング格子を用いた二次元線形/非線形長波理論に基づく津波伝播・遡上を計算できます。
計算スキームは、2次のLeap-Frogであり、計算格子は、Staggered Gridです。
非線形長波理論の移流項は数値分散を解消するため風上差分として処理しています。
海陸境界は、線形長波理論に基づく場合は全反射条件、非線形長波理論に基づく場合は粗度係数を用いた遡上境界条件です。
外海側の境界条件は、Imamura et al.(2006)に基づき計算され、各領域境界の外海判定は自動的に設定されます。
標高を上げ下げすることにより疑似的に潮位条件を導入できます。
堤防などの構造物をラインデータとして導入でき、本間(1940)の公式で構造物の越流を計算できます。
地震発生時の構造物の沈下比を一律の値で設定できます。
1.1.3. 計算結果の可視化¶
GeoTiffおよびnetCDFの出力をもとにGISツールによる計算結果の可視化が可能です。
1.2. TNSパッケージの内容¶
TNSパッケージは
津波シミュレータTNS実行ファイル
例題計算用データ
から構成されています。
1.2.1. 津波シミュレータTNS実行ファイル¶
津波シミュレータTNSは以下のツール群から構成されています。
本パッケージには、各ツールのLinux用コンパイル済実行ファイルを梱包しています。
convertCAOdata
公開データ変換ツールです。
内閣府が公開する津波計算用データをTNSで使用可能な形式に変換します。
ConfMaker
計算条件設定ツールです。
津波伝播計算に必要なファイルの作成処理を行います。
IWHMaker
津波初期波高計算ツールです。
断層パラメータを入力としてOkada(1992)による地殻変動量・海面変動量を計算し、tns-solverの入力データファイルを生成します。
tns-solver
津波伝播・遡上シミュレーションソルバーです。
TUNAMI-N2をもとにしたネスティング格子を用いた二次元線形/非線形長波理論に基づく津波伝播・遡上計算を実行します。
dump1d2ascii
津波伝播・遡上計算結果変換ツールです。
tns-solverが出力する時系列バイナリファイルを入力としてASCIIファイルを生成します。
bin2ascii, bin2tiff, bin2netCDF4
津波伝播・遡上計算結果変換ツールです。
IWHMakerおよびtns-solverが出力する面的バイナリファイルを変換します。それぞれ、ASCIIファイル、GeoTIFFファイル、netCDFファイルを出力します。
1.2.2. 例題計算用データ入力ファイル¶
TNSパッケージのexampleディレクトリには、水平床と海底地形を想定した例題を準備しており、例題計算の設定を記述したXMLファイル(ex01.xml, ex02.xml, ex03.xml, ex04.xml)を含めています。また、例題ex01およびex04の計算設定ファイル、例題ex01およびex04実行用のシェルスクリプト例もexampleディレクトリに配置しています。
例題ex01
ex01は水深4,000mの水平床における津波伝播シミュレーションを実行する例題です。810m格子領域と270m格子領域での津波伝播計算を実行します。810m格子領域上で生じた津波が270m格子領域に伝播し、810m格子から270m格子へのネスティング接続計算を行う設定となっています。
ex01のファイル
No. |
種別 |
ファイルパス |
---|---|---|
例題計算実行スクリプト |
runTNS_CPU_ex01.sh runTNS_GPU_ex01.sh |
|
計算パラメータ記述XMLファイル |
ex01.xml |
|
初期津波高計算ツール設定ASCIIファイル |
IWHConf_ex01.txt |
|
津波伝播・遡上計算設定ASCIIファイル |
CalcParameter_ex01.txt |
|
地形標高分布データファイル |
DATA/TPG_D4000-M0810.dat DATA/TPG_D4000-M0270-01.dat |
|
断層パラメータファイル |
DATA/Fault_ex01.dat |
|
観測点定義データファイル |
DATA/Station.dat |
|
沿岸水位抽出点データファイル |
なし |
|
構造物ラインパラメータファイル |
なし |
沿岸水位抽出点データファイル、構造物ラインパラメータファイルはex01では使用しません。
例題ex02
ex02は高知県沖を震源とする規模Mw8.2の断層モデルによる津波伝播・遡上シミュレーションを実行する設定の例題です。最小90m間隔の格子領域による設定例を記述しています。計算領域は、内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」提供データ変換ツールの実行で入力データを作成することを仮定しています(作成した計算領域データはパッケージには含まれません)。
ex02のファイル
No. |
種別 |
ファイルパス |
---|---|---|
例題計算実行スクリプト |
なし |
|
計算パラメータ記述XMLファイル |
ex02.xml |
|
初期津波高計算ツール設定ASCIIファイル |
なし |
|
津波伝播・遡上計算設定ASCIIファイル |
なし |
|
地形標高分布データファイル |
なし |
|
断層パラメータファイル |
DATA/Fault_ex02.dat |
|
観測点定義データファイル |
DATA/Station_E2446 |
|
沿岸水位抽出点データファイル |
DATA/ ExtractCoastalPoint_E2446_0090-03.dat |
|
構造物ラインパラメータファイル |
DATA/ConstLine-Param_0001.dat |
例題ex03
ex03はex02と同様に高知県沖を震源とする規模Mw8.2の断層モデルによる津波伝播・遡上シミュレーションを実行する設定の例題です。最小10m間隔の格子領域による設定例を記述しています。計算領域は、内閣府「南海トラフの巨大地震モデル検討会」提供データ変換ツールの実行で入力データを作成することを仮定しています(作成した計算領域データはパッケージには含まれません)。
ex03のファイル
No. |
種別 |
ファイルパス |
---|---|---|
例題計算実行スクリプト |
なし |
|
計算パラメータ記述XMLファイル |
ex03.xml |
|
初期津波高計算ツール設定ASCIIファイル |
なし |
|
津波伝播・遡上計算設定ASCIIファイル |
なし |
|
地形標高分布データファイル |
なし |
|
断層パラメータファイル |
DATA/Fault_ex02.dat |
|
観測点定義データファイル |
DATA/Station_E2446 |
|
沿岸水位抽出点データファイル |
なし |
|
構造物ラインパラメータファイル |
DATA/ConstLine-Param_0001.dat |
沿岸水位抽出点データファイルはex03では使用しません。
例題ex04
ex04はex01同様に水深4,000mの水平床における津波伝播シミュレーションを実行する設定の例題です。ex01とは異なり、270m格子領域が波源断層の直上に設定されています。
ex04では、地殻変動量分布および初期津波高分布の設定方式が異なる2つの津波伝播・遡上計算設定ASCIIファイルを梱包しています。CalcParameter_ex04.txt はex01と同様に810m格子領域と270m格子領域で分布データファイルを設定します。一方、CalcParameter_ex04_interpolateIWH.txtは、270m格子領域において分布データファイルを設定せず、810m格子領域の分布データから空間補間によって計算します。
ex04のファイル
No. |
種別 |
ファイルパス |
---|---|---|
例題計算実行スクリプト |
runTNS_CPU_ex04.sh runTNS_GPU_ex04.sh runTNS_CPU_ex04_interpolateIWH.sh runTNS_GPU_ex04_interpolateIWH.sh |
|
計算パラメータ記述XMLファイル |
ex04.xml |
|
初期津波高計算ツール設定ASCIIファイル |
IWHConf_ex04.txt |
|
津波伝播・遡上計算設定ASCIIファイル |
CalcParameter_ex04.txt CalcParameter_ex04_interpolateIWH.txt |
|
地形標高分布データファイル |
DATA/TPG_D4000-M0810.dat DATA/TPG_D4000-M0270-02.dat |
|
断層パラメータファイル |
DATA/Fault_ex01.dat |
|
観測点定義データファイル |
DATA/Station.dat |
|
沿岸水位抽出点データファイル |
なし |
|
構造物ラインパラメータファイル |
なし |
沿岸水位抽出点データファイル、構造物ラインパラメータファイルはex04では使用しません。
各例題において共通で使用するファイル
No. |
種別 |
ファイルパス / 説明 |
---|---|---|
到達時間閾値設定ファイル |
DATA/HeightThreshold.dat(津波高さ用) |
|
DATA/InundationThreshold.dat(浸水深用) |
||
カラーマップファイル |
DATA/colormap[Type].dat |
|
説明: ConfMakerおよびbin2tiffが出力するGeoTIFFファイルの配色を設定するファイルです。 [Type]と対象データの対応は以下のとおりです。 TPG:地形標高分布データ用の配色設定です。 RCF:粗度係数分布データ用の配色設定です。 Z:鉛直地殻変動および水位用の配色設定です。 Z+70, Z+93:潮位にT.P.+70cm, T.P.+93cmを設定した場合の静水面からの水位用の配色設定です。 MN:線流量用の配色設定です。 IND:浸水深用の配色設定です。 |
1.3. 参考文献¶
三好崇之・鈴木亘・近貞直孝・青井真・赤木翔・早川俊彦(2019): 津波シミュレータTNSの開発, 防災科学技術研究所研究資料, 第427号, 1-18 (PDF 4.2 MB)
本間仁(1940):低溢流堰堤の流量係数(第2編),土木学会誌,26,849-862
Imamura, F., Yalciner, C., A. and Ozyurt, G. (2006): Tsunami modelling Manual (TUNAMI model)
Kajiura, K. (1963): The leading wave of a tsunami, Bull. Earthq. Res. Inst. Univ. Tokyo, 41, 535-571
小谷美佐・今村文彦・首藤伸夫(1998):GISを利用した津波遡上計算と被害推定法,海岸工学論文集,45,356-360
Okada, Y. (1992): Internal deformation due to shear and tensile faults in a half-spcae, Bull. Seismol. Soc. Am., 82, 1018-1040
Tanioka, Y. and Satake, K. (1996): Tsunami generation by horizontal displacement of ocean bottom Geophys. Res. Lett., Vol.23, 861-864